Research

光コム光源の研究

光コムの周波数 は、以下の2つの独立したパラメータで決まります。

  • (繰り返し周波数): レーザー共振器内で光パルスが往復する時間(往復時間)の逆数で、コムモード間の周波数間隔を決定します。

  • (キャリア・エンベロープ・オフセット周波数): 光パルス列の搬送波(キャリア)と包絡線(エンベロープ)の位相ずれによって決まる周波数で、コム全体のスペクトルがどこから始まるかを決定します。

私たちの研究室では、光ファイバの持つ優れた特性・柔軟性を最大限に活かし、光コム光源をより高性能化、高機能化することを目指しています。具体的には、以下のようなテーマに取り組んでいます。


1. 新しいファイバレーザー光コム光源の開発:

従来の大型で複雑なレーザーシステムに代わり、光ファイバの柔軟性と安定性を利用することで、小型で堅牢な光コム光源の開発を進めています。光ファイバは、レーザーの増幅媒体や共振器として非常に優れており、環境変動に強く、メンテナンスが容易な光源の実現に貢献します。


2. 光コムの広帯域化・波長拡張: 

光コムがカバーする周波数帯域を広げることで、より多岐にわたる分子や原子の精密分光が可能になります。光ファイバーの非線形光学効果を効率的に利用し、超短光パルスを広帯域化する技術を研究しています。これにより、可視光から赤外線領域まで、様々な波長領域で機能する光源を開発し、大気中の温室効果ガスや医療分野における病気の診断など、新たな応用への道が開かれます。


3. 光コムの安定化技術の確立: 

光コムの精度を最大限に引き出すためには、frepfceoを極めて高精度に安定化させることが不可欠です。私たちは、光ファイバを用いることで実現されるシステムのシンプルさを活かし、光コムを原子時計などの周波数標準器にロックするための高精度な制御システムを開発しています。これらの研究は、光ファイバという身近な材料を核に、次世代の原子時計、高精度測距、天文観測、そして量子情報技術など、様々な分野の発展に大きく貢献するものです。


4. デュアルコム光源の開発とその応用: 

私たちは、上記の単一の光コム光源の研究に加え、デュアルコム(二つの光コム)光源の開発にも力を入れており、国内外でトップレベルの技術とノウハウを有しており、多数の論文と特許があります。

デュアルコムとは、わずかに異なる繰り返し周波数 frep1frep を持つ2つの光コムを組み合わせて利用する技術です。

この2つの光コムを同時に観測対象に照射すると、それぞれのスペクトル線が干渉し合い、周波数の差 に応じて、ラジオ波(RF)帯域に変換された周波数信号(ビート信号)が発生します。このビート信号を測定することで、光コムの持つ広帯域な情報(スペクトルや位相)を高速かつ高感度に取得できます。

このデュアルコム技術は、特に以下の分野で革新的な役割を担います。

  • デュアルコム分光法: 従来の分光法に比べて、広帯域なスペクトルをミリ秒といった極めて短い時間で測定できるため、化学反応のリアルタイム追跡や、動的なガスの流れの分析が可能になります。

  • 高精度測距: 2つの光コムのパルス列の時間差を利用することで、非接触で高精度な距離測定ができます。

  • 光通信: 複数の波長を利用する次世代の光通信システムにおいて、信号の正確なデコードに貢献します。

私たちの研究は、これらの技術を光ファイバーレーザーで実現することで、より小型で実用的なデュアルコム光源の創出を目指しています。これにより、光コム技術の応用範囲をさらに広げ、新たな産業や科学分野への貢献を目指します